顎関節症
あごが痛い、口が開きにくいといった症状は顎関節症である可能性があります。
顎関節は、喋る、噛む、笑うといった日常的に行う動作を支える重要な部分のため、問題がある場合には適切な治療を行うことをおすすめします。
顎関節症について
顎関節症の主な症状
顎関節症とは、顎関節を構成する骨や筋肉、靭帯などのバランスがなんらかの原因で崩れることによって発症します。日本では2人に1人が経験すると言われているほど身近な病気です。以下は顎関節症の主な症状です。
あごが痛い
口を開けたり閉じたりする時や食事で咀嚼(そしゃく)をする際に、下顎頭(かがくとう)が動くことで顎関節に痛みが出たり、咬筋(こうきん)、側頭筋などの咀嚼する際に使われる筋肉に痛みが生じます。多くの患者さんが顎関節痛と筋痛を区別することができず、あごの周辺が痛いと感じているため、治療にあたっては正確な診断が必要です。
あごを動かすと音が鳴る
特に口を広く開けたり、噛む動作をするときに「コキッ」「カクン」といった音が聞こえることが多いです。この症状は必ずしもすべての人が痛みを伴うわけではありません。
口が開きづらい
顎関節の構造の異常や筋肉の炎症による痛みで口が大きく開けられなくなります。痛みがなくても顎関節自体の動きが制限されて、口が大きく開かなくなることもあります。
噛み合わせが変化する
顎関節や、あごを動かすための筋肉に問題が生じることで噛み合わせが変化することもあります。あごの関節や周辺の筋肉に問題がある状態で他の治療をすると、症状が悪化してしまうこともあるため、治療の前には状態をきちんと診断することが重要です。
顎関節症を放置しておく危険性
顎関節症を放置しておくと、さまざまな健康問題を引き起こすリスクがあります。痛みや動きの制限だけでなく、慢性的な頭痛や耳鳴りなどの症状が生じることもあります。さらに、噛み合わせの変化や磨耗の問題も引き起こす可能性が高まります。できるだけ早い対応が症状の悪化を防ぐために重要となります。
機能障害
長期間放置すると、痛みや不快感が増すだけでなく、口を開ける際の動きが制限される、噛み合わせが悪くなるなど、あごの機能障害が生じるリスクが高まります。
噛み合わせの変化
顎関節症が原因で噛み合わせが悪くなると、それに伴い歯の磨耗や歯の位置が変わることがあります。放置するとさらなる顎関節の問題や虫歯、歯周病のリスクを高める可能性があります。
耳の症状や慢性的な頭痛・首痛
顎関節は耳の近くに位置しているため、放置すると耳鳴り、耳の詰まり感、聴力低下などの耳の症状を引き起こすことがあります。また、筋肉に緊張や炎症が生じることで頭痛や首痛の原因となることもあります。
顎関節症は症状が進行すると治療がより困難となり、回復に時間がかかることもあります。初期段階での治療が最も効果的であり、再発のリスクも低くなるため、異常を感じたら一度歯科医院を受診することを検討してみてください。
さまざまな原因によって引き起こされる顎関節症
顎関節症は、私たちの日常生活に与える影響が大きく、生活の質に深く関わってきます。顎関節症はある一つの原因だけでなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って引き起こされることがほとんどす。ストレスや歯の噛み合わせの問題、外傷など、多岐にわたる原因が顎関節症の背景に潜んでいます。効果的な治療を進めるために、正確な原因を知る必要があります。
顎関節症の原因
歯の噛み合わせの不具合
歯の噛み合わせが正しくない場合、顎関節に過度な負担がかかることがあります。この不均衡な力が顎関節や周囲の筋肉に継続的に作用することで、痛みや不快感を引き起こすことがあります。特に、矯正治療を受けていない歯並びの不具合や、欠けたり削れたりした歯による噛み合わせの変化が影響を及ぼすことが考えられます。
外傷や事故
顎関節やその周辺を直接的に傷つけるような外傷、例えばスポーツ中の衝突や交通事故などによる打撲や捻挫が、顎関節症の原因となることがあります。特に、あごを強く打ったり、急激に動かしたりすることで、関節の位置や形状が変わる可能性があります。
長期的な歯ぎしりや食いしばり
歯ぎしりや噛み締めは、睡眠中に無意識に行われることが多いです。これらの動作が継続的に行われると、顎関節や筋肉に過度なストレスがかかり、顎関節症を引き起こすリスクが高まります。また、歯の磨耗や歯肉の後退など他の口腔内の問題も引き起こす可能性があります。就寝時に装着するマウスピースのことを特にナイトガードと呼びます。
ストレスや関節の異常
ストレスによって筋肉の緊張が高まり、顎関節に影響を及ぼすことがあります。また、関節自体の構造的な異常や関節炎などの疾患が、顎関節症の原因となることも考えられます。
以上の要因が複合的に作用することで、顎関節の機能や位置が変わり、顎関節症を引き起こす可能性があります。
顎関節症の治療について
顎関節症の治療を行う上では、まず最初に患者さんの症状やあごの動き、噛み合わせの状態などを確認します。場合によってはX線やMRIを使用して、顎関節の状態や関節内の異常を確認することもあります。
マウスピースによる治療
マウスピースによる治療は、顎関節症のほか、噛み合わせを安定させたり、歯ぎしりや噛み締めを防ぐためによく用いられます。夜間や日中に装着して顎関節にかかる負担を軽減します。
マウスピースとは?
マウスピースは、歯にフィットする形状をしたプラスチック製の装置です。一般的には、上の歯にフィットするものが多いですが、下の歯に合わせるタイプも存在します。マウスピースは、患者さんの口腔内の形に合わせてオーダーメイドで製作されることがほとんどです。
マウスピースは何のために装着するのか
噛み合わせの安定
不正確な噛み合わせや歯の接触を調整し、顎関節にかかる負担を軽減します。
歯の保護
歯ぎしりや食いしばりによる歯の摩耗や損傷を防ぎます。
筋肉のリラクゼーション
顎の筋肉に過度な圧力やストレスをかけることを防ぐことで、筋肉のリラクゼーションを促進します。
症状の軽減
あごの痛みや筋肉の緊張を軽減します。
マウスピースの種類
全床型
全ての歯をカバーするタイプのマウスピース。歯ぎしりや噛み締めの予防に効果的です。
就寝時に装着するナイトガード
ナイトガードは、就寝時に歯ぎしりや噛み締めを防ぐために装着するマウスピースです。柔軟なプラスチックやアクリル樹脂で作られ、歯や顎関節への摩耗や圧力を軽減します。歯科医院では一人ひとりのお口にぴったりとフィットするよう製作します。正しく使用することで、顎関節症の症状の緩和や歯のダメージ予防に有効なため、毎日安心して眠ることができます。
マウスピース療法は、患者の噛み合わせや顎関節の状態に基づいてオーダーメイドのマウスピースを製作します。治療開始時には、歯の印象採取を行い、それに基づいて一人一人のお口に合ったマウスピースを製作します。装着後は、正確なフィット感を確認し、必要に応じて調整が行われます。
マウスピースは継続的なケアと、歯科医師による定期的なチェックが必要なため、フィット感が薄れた場合はすぐに使用をやめてマウスピースを製作した歯科医院までご相談ください。
飲み薬による治療
顎関節症の痛みや炎症を抑えるための鎮痛剤や筋弛緩剤、抗炎症薬などを症状や原因に応じて処方します。これらの薬は一時的な症状の軽減を目的としているため、長期的な解決策としてはマウスピースによる治療やご自身で行うセルフケアなどと組み合わせて行うことが効果的です。
患者さんがご自身で行うセルフケア
顎関節症のセルフケアは、症状の予防や軽減を目的としてご自身で日常的に取り組むことができます。
冷温療法
炎症や腫れがある初期には、氷のうや冷たいジェルパックをあごの痛む部分に当てることで炎症を鎮めます。逆に、こわばりや痛みが続く場合は、温めたタオルであごを温めることで筋肉のリラックスを促進します。
ソフトダイエット
あごに負担をかける硬い食べ物や大きな食べ物を避け、やわらかい食物を中心に摂取します。例えば、スープ、プリン、ゼリーなどが挙げられます。
顎のエクササイズ
あごをゆっくり開閉する、左右に動かすなど、顎関節の範囲内でのソフトな動きを繰り返すことで、筋肉の柔軟性を保つことができます。
ストレスの軽減
ストレスが歯ぎしりや噛み締めの原因となることがあるため、深呼吸、瞑想、趣味の時間を持つなどして、日常のストレスの軽減に努めます。
口の開けすぎの回避
大きく口を開けることを避ける、例えば、大きな食べ物を一口で食べることを避けるなど、日常の中での注意が必要です。
これらのセルフケアを継続的に行うことで、顎関節症の症状の悪化を防ぐことが期待できますが、重度の症状や持続する痛みがある場合は、すぐに歯科医院までご相談ください。